炎症性腸疾患とはどんな病気？
炎症性腸疾患とは、大腸粘膜で炎症が起こり、びらんや潰瘍が形成される慢性疾患の総称です。
主に、腹痛、下痢、発熱、血便などの症状を伴い、日常生活に大きな支障をきたします。
炎症性腸疾患の原因別種類
炎症性腸疾患は、大きく以下の2つに分けられます。
特異性腸炎
細菌やウイルスの感染、薬剤、大腸憩室炎、虚血性腸炎、被ばくなどの明らかな原因によって発症する炎症性腸疾患です。
非特異性腸炎
はっきりとした原因が解明されていない炎症性腸疾患です。潰瘍性大腸炎、クローン病などがその代表です。ベーチェット病、単純性潰瘍なども、非特異性腸炎に分類されます。
潰瘍性大腸炎とクローン病の
違い
非特異性腸炎、また炎症性腸疾患として代表的な病気に、潰瘍性大腸炎とクローン病があります。
大腸粘膜に限定して肛門から連続的に炎症が起こる「潰瘍性大腸炎」に対して、「クローン病」では口～肛門のすべての消化管で病変が起こります。ただしクローン病の場合も、炎症が起こりやすいのは大腸・小腸となります。
また共通点としては、以下のようなことが挙げられます。
- 厚生労働省から難病の指定を受けている。
- 慢性的な炎症、びらん、潰瘍が生じる。
- 症状が現れる活動期と、症状が落ち着く寛解期が繰り返される。
- 免疫の異常によるものとの指摘があるが、明確な発症原因が解明されていない。
- 完治のための治療法が確立されていない。治療においては、寛解期を長く維持することに重点が置かれる。
潰瘍性大腸炎もクローン病も、適切な治療を行うことで、以前とほとんど変わらない生活を送ることが可能です。
潰瘍性大腸炎の症状・原因・
治療法について
潰瘍性大腸炎
大腸粘膜の慢性的な炎症により、びらん・潰瘍が生じる病気です。
腹痛、下痢、血便などの症状を伴います。放置していると重症化しQOLが大きく低下したり、手術が必要になったりすることがあります。また、長期にわたる大腸の炎症は、大腸がんのリスクを高めます。
患者層としては20～30代が中心となりますが、子どもや中高年にも発症します。
潰瘍性大腸炎の症状
- 腹痛
- 下痢
- 血便
- 貧血
- 発熱
- 体重減少
潰瘍性大腸炎の再燃と寛解の違いは？
潰瘍性大腸炎の経過では、症状の現れる「活動期」と、症状の落ち着く「寛解期」が見られます。また活動期のうち、再び症状が悪くなることを「再燃」と言います。
潰瘍性大腸炎は、その経過によって、以下のように分類されます。
ただし、ほとんどのケースが、活動期と寛解期が繰り返される「再燃寛解型」にあたります。
| 経過タイプ | 特徴 |
|---|---|
| 再燃寛解型 | 症状が現れたり、落ち着いたりを繰り返す。 |
| 慢性持続型 | 発症後、6ヶ月以上にわたって強い症状が続く。 |
| 急性劇症型 | 急激に発症し、その後緩やかに落ち着いていく。 |
| 初回発作型 | 発症後、寛解に向かい、その後再燃しない。 |
潰瘍性大腸炎の原因
体内でTNF-αという物質が過剰に生成されることで、大腸で炎症が起こります。免疫の異常の影響が指摘されていますが、なぜそのようなことが起こるのか、根本的な原因についてははっきりと解明されていません。
血縁家族内で発症しやすいことから、遺伝的な要因による影響も指摘されています。
潰瘍性大腸炎の検査・診断
問診・診察の上、大腸カメラ検査（大腸内視鏡検査）を行い、診断します。
内視鏡を通して、潰瘍性大腸炎特有のびらん・潰瘍が確認できます。組織を採取し、病理検査を行えば、確定診断となります。
潰瘍性大腸炎の治療
潰瘍性大腸炎の治療は、薬物療法、生活習慣の改善が中心となります。
これらの治療により、炎症を抑えて寛解期へと移行させ、その状態を長く維持することに努めます。
薬物療法
薬物療法では、炎症抑制剤を主に使用します。症状の強さなどによって、他のお薬を組み合わせます。
炎症抑制薬
大腸の炎症を抑えます。経口薬に加え、座薬、注腸剤があります。
ステロイド
炎症が強い場合には、ステロイドを使用します。寛解期への導入にも適しています。経口薬に加え、座薬、注腸剤があります。
免疫調整薬（プリン拮抗薬、カルシニューリン阻害薬）
潰瘍性大腸炎の発症に影響すると思われる、過剰な免疫反応を抑えます。炎症を抑えたり、寛解期への導入の際に使用します。ステロイドの量を減らす場合に使用することもあります。
抗体製剤
炎症を引き起こす体内物質の働きを抑える薬です。
生活習慣の改善
生活習慣の改善も重要です。活動期、寛解期とも必要ですが、寛解期にはやや制限が緩くなります。
食事
食べ過ぎや早食い、脂っこいもの・カフェイン・香辛料などの摂り過ぎなどを避け、胃腸への負担を和らげます。
寛解期はほぼ制限なくお食事を摂っていただけますが、ストレスのない程度に胃腸に配慮するようにしてください。
アルコール
アルコールによる潰瘍性大腸炎への影響については、はっきりしたことが分かっていませんが、できるだけお酒は控えることをおすすめします。寛解期も、基本的に適量であれば構いませんが、やはり飲み過ぎにはご注意ください。
運動
活動期・寛解期とも激しい運動は控えましょう。ウォーキング等の軽い有酸素運動については、むしろ積極的に行うべきと言われています。
クローン病の症状・原因・
寿命への影響について
クローン病
大腸・小腸を中心としながら、口から肛門のすべての消化管において、炎症、びらん・潰瘍が生じ得る慢性疾患です。潰瘍性大腸炎と比べて、より深い位置まで炎症が進む傾向があります。広範囲の炎症によって、栄養障害に陥ることもあります。
患者層としては10～20代に多く、男女別ではやや男性に多く見られます。
クローン病の症状
- 腹痛
- 下痢
- 体重減少
- 発熱
- 肛門の病変（切れ痔・痔ろうなど）
クローン病の原因
潰瘍性大腸炎と同様、体内でTNF-αという物質が過剰に生成されることで、消化管で炎症が起こります。免疫の異常による影響が指摘されていますが、その根本的な原因について、はっきりしたことは分かっていません。
クローン病と寿命の影響
クローン病の方は、治療せず重症化し腸管穿孔・大量出血を起こした場合、感染症や静脈血栓症を合併した場合など、そのことで命を落としてしまうことがあります。
ただ、近年は医療の進歩により、短期的・長期的な死亡率、および寿命についても、クローン病でない人とほとんど変わりません。正しい診断を受けること、早期から継続して治療を受けることが大切です。
クローン病の検査・診断
問診・診察の上、胃カメラ検査（胃内視鏡検査）や大腸カメラ検査（大腸内視鏡検査）を行い、診断します。内視鏡検査では、病変の程度や範囲を詳細に調べることが可能です。また組織を採取し病理検査を行えば、確定診断ができます。
クローン病の治療
クローン病の治療では、以下のような治療を行います。
食事療法
炎症を起こす原因・きっかけとなる食品を、普段の食事から取り除きます。
食事を摂ることが困難である場合、消化管を休ませる必要がある場合には、栄養療法を行います。鼻や口からの経腸栄養療法、点滴での完全静脈栄養法などがあります。
薬物療法
炎症抑制薬を中心に使用し、必要に応じて他のお薬を組み合わせます。
炎症抑制薬
大腸や小腸の炎症を抑える薬です。活動期・寛解期を通して使用します。
副腎皮質ホルモン(ステロイド)
炎症が強い場合には、短期的にステロイドを使用します。
免疫調整薬
クローン病の発症に影響すると言われている過剰な免疫反応を抑制します。ステロイドを使用できない場合などに選択します。
抗体製剤
炎症の原因となる体内物質の働きを抑えます。
外科的治療
薬物療法で十分な効果が得られない場合には、病変部を取り除く手術を行います。
国内では、クローン病の発症後10年以内に、約7割が何らかの手術を受けています。
生活習慣の改善
活動期にはしっかりとした生活習慣の改善が必要です。寛解期には、ストレスにならないように、その制限を軽減できます。
食事
炎症の原因やきっかけとなる食品を取り除きます。炎症の部位や体質によって、避けるべき食品が異なります。
必要以上の制限は栄養障害の原因になるため、医師とよく相談した上で、食事の管理を行いましょう。
アルコール
アルコールと炎症の因果関係は明確に立証されていませんが、少なくとも活動期は飲み過ぎを控えるようにしてください。
タバコ
喫煙は、クローン病の悪化や再燃の原因になることが分かっています。必ず、禁煙しましょう。
運動
激しい運動はお控えください。一方で、ウォーキングなどの軽い有酸素運動は、寛解期を維持するために有効です。